TOHO見聞録1970/vol.53（ハノーファー～ベルリン）

あだ花のような西ベルリン

　主催者側の都合でベルリンのコンサートが一日繰り上がって、今夕になったため、出発も慌ただしかった。

　西ベルリンが東ドイツ領の中に離れ小島のようにあるため、バスで入ることが出来ない。したがって、ハノーファーの空港でドライバー達ともお別れである。
　本当に気の良いタフな連中だった。一人一人と握手を交わして別れを惜しんだ。彼らも「こんな、統一のとれた気持ちの良い団体は初めてであり、皆さんの素晴らしい演奏は一生忘れない」と言ってくれた。

　東ドイツの上空を通過しながら、どうしてこんな風にドイツという国を２つに分けて、しかも、飛び島のように西ベルリンがあるのか。戦後２５年経ってもいまだに、緊張が続いているのか、理解しようにも、あまりにも不自然で信じられない。

　西ベルリンのテンペルホフ空港に着くと、田中路子さんが、すっかり元気になった病人を連れて迎えてくれた。田中路子さんいわく「このての病人は、うちへ来てたくわんのしっぽでもかじってれば治るのよ！」噂にたがわぬ貫禄である。（田中路子女史については知る人ぞ知る有名人なので、インターネットのウィキペディアを参照して下さい。）

　ホテルは繁華街クーダムとベルリン・ホッホ・シューレ（音楽学校）の中間にあるシュタイン・プラッツで、一流とは言いがたいが、日本人客も多く感じの良いホテルである。

　演奏会を行うホールは如何にも戦後に急造したといった感じで、立派とはいえないが、カラヤンのサーカス小屋といわれる現在のフィルハーモニーができるまでは、ベルリン・フィルの本拠であったといわれる。

　演奏会の日程が急に変更になったため、聴衆の入りは十分ではなかったが、ヘンデル『コンチェルト・グロッソ』、モーツアルト『ディヴェルティメント』、ヴォルフ『イタリアン・セレナーデ』、（以上3曲斉藤秀雄指揮）、シェーンベルク『浄夜』、小山清茂『アイヌの歌』（以上2曲秋山和慶指揮）というプログラムで挑戦したコンサートは大成功で、我々はベルリンの聴衆からも歓迎された。

　これで、この演奏旅行も目的の大半を達成できたと云って良いだろう。
　明日、ベルリンは祝日だそうで、街はまたすべて休みということらしい。

　音楽会の後、田中路子女史が用意して下さったレストラン『京都』の和食パーティーに行く。店の造作から、料理までまったく日本と変わらない。久しぶりに日本酒を飲んだ。

ベルリン高等音楽院ホールＧＰ

ステージ袖の丸窓から撮った斎藤教授の本番指揮(1)

ステージ袖の丸窓から撮った斎藤教授の本番指揮(2)

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