TOHO見聞録1970/vol.22（ソフィア）

いよいよ共産圏最後の国へ

　相変わらず変わり映えのしない平原を汽車は走っている。
　相当遅れているようだが、時刻表はないし、いったいどの辺りを走っているのやら見当もつかない。
　次の目的地ブルガリアはユーゴスラヴィアの東隣にある国だが、リュビリアーナはユーゴスラヴィアの西端にある。つまり汽車はユーゴスラヴィアの西から東まで横断しているわけだ。
　地図で見てもかなりの距離である。これが一人旅だったらどんなに心細いことだろうと思う一方で、このメンバーたちの顔もつくづく見飽きてきたと思う。こう毎日べったり一緒に行動していると、たまには一人になりたくてたまらない気分になる。これがまだあと40日以上も続くとは……気が遠くなりそうだ。

　昨日聞いた話では、午後４時にソフィアに着く予定だったが、３時になっても国境を越える気配はない。
　遅れに遅れて午後７時になってようやくブルガリアとの国境へ着いた。
　共産圏の国境通過は例によって厳しい。モスクワのときと同じようにパスポート写真と本人の顔を３回ずつ念入りにチェックされる。混んでいようが、どれだけ汽車が遅れていようが関係ない。
　たっぷりと時間をかけたパスポートチェックが終わり、ホッとしたのもつかの間、今度はブルガリアの入国審査がおこなわれる。

　ソフィアは国境を越えてわりとすぐの場所にあったのだが、それでもこのパスポートチェックのお陰で到着したのが午後９時だった。
　なんとユーゴスラヴィア横断に19時間かかったことになる！
　今日は移動だけなので、遅れてもスケジュールに支障はないが、それにしても遅延のレベルの桁が違う。
　バスも汽車も飛行機も時間通り動かないとなると、いったい何で旅行すればよいのだろうか。

　外へ出るとしとしと雨が降っている。
　再びソ連製のボロバスが現れ、ホテルまで移動する。
　ソフィアの街は、またソ連に逆戻りしたのではないかと錯覚するほどソ連的で、今までまわった東欧諸国の中で一番社会主義国家らしい印象の国である。
　雨のせいもあるが、街全体が薄暗く、人々の服装も地味で野暮ったい。
　ホテルも殺風景だし、従業員の手際も悪い。
　料理は大味でまったく塩気がなく、何の肉かわからないステーキが出てきた。

　ともあれ、今日はようやくホテルに泊まれる。
　それだけでありがたい。

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