TOHO見聞録1970/vol.59（デン・ハーグ～パリ）

いよいよ最後の目的地

　いよいよ最後の公演地への移動である。午前中自由時間を過ごし、昼前にホテルを出てデン・ハーグ駅から汽車で６時間でパリ北駅に着く。

　車窓から見えるオランダの風景はのどかで美しい。猫の額ほどの土地に家庭菜園を作っていたり、牧場の水路に豊かな水が流れていたり、国土の大半を干拓で造ったというだけあって、平地ばかりで平坦であるが、隅々まで人の手が入った土地である。
　汽車の旅行の楽しさは国境を越える度に風景が変わり、家の屋根が変わっていくのが見られ、乗客の言葉もフラマン語からフランス語へと自然と変わっていく様をゆっくり見聞できることだ。

　最後だと思うと６時間の旅も苦にならず、うきうきした気分である。夕暮れのパリ北駅は相当の混雑である。
　ホテルは下町風の３区にあり、東京でいえば須田町・岩本町あたりの雰囲気である。

　メトロの駅はアール駅が近く、パリの胃袋と言われた大市場の建物が残っている。名物のエスカルゴトイレなどもあって、なかなか面白そうだ。
　パリの食事はホテルに近いビストロ風の店で食べることになる。この店は家庭的で、本当に久しぶりでガーリックやオリーヴオイルの効いた濃厚な味が楽しめるあたりが、さすが、パリである。

　ホテルはいかにも下町風の庶民的な感じで、廊下は真っ暗でスイッチを入れると1分ほど明かりがついて、また消えたり、トイレは鍵をかけると明かりがつくといった節約スタイルである。ただ、唯一有難いのはバスつきである。
　ホテルのフロントの若い男がまったく英語を受け付けないため、メンバー達がカギを取りに行く度に大騒ぎになるので、部屋番号を紙に書いて、それを見せて「クレクレ」と怒鳴るようにワル知恵をつけたら大成功、皆に感謝された。

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