TOHO見聞録1970/vol.13（ワルシャワ〜プラハ）

暗い春のなごり

　今日は、ポーランド航空でワルシャワからプラハに向かう。
　朝、空港に着いたら、悪天候のため飛行機の出発のめどがたたないと言われた。
　この旅行に出てから、天気にはあまり恵まれなかったが、天候によってスケジュールが影響を受けるのはこれが初めてである。出発は８時10分の予定だったが、離陸したのは10時半だった。

　雨雲を抜けると上空はピッカピカの晴天。自然とは不思議なものだ。プラハ上空の雲もぶ厚く、下界はまったく見えない。再び雲を突き抜けて急降下すると、いきなり眼下に滑走路が現れる。明らかにオーバーフライトで、機体は再び急上昇。不安が募る操縦士だ。
　これを何度か繰り返し、４回目にようやく着陸したが、滑走路ぎりぎりの所へ少しお尻をふってやっと止まる。何回乗っても離着陸は自然の摂理に反するようで気持ちが悪い。
　プラハの空港は近代的で、ターミナルビルも素晴らしいものだった。半年前まで日本に来ておられたヴァイオリンのフリョーノヴァ先生が空港まで迎えに来てくださる。

　ホテルは街中の繁華街にあったが、かなり古めかしく、風呂も付いていない。シャワーを添乗員の中村氏の部屋に借りにいったが、お湯がぬるくて風邪を引きそうになってしまった。

　プラハでも演奏会の実況放送があるらしく、着いて早々放送料として一人500コルナ（約12,500円）が配られる。プラハの平均月収が1,500コルナ（約37,500円）だというからけっこうな額だが、喜ぶべきなのかどうか悩ましいところだ。

　というのも、ポーランド同様、ここでも支払いは現地通貨で持ち出し禁止なのである。
　プラハではほとんど自由時間がとれないので、短い時間で効率よく買い物をしなければならないが、土地勘もなければ言葉も通じないときてはそれも難しい。
　へたをすると、「自由時間が少ない」というメンバーたちの潜在的な不満を助長することにもなりかねない。
　これだけのお金があればチェコ名産のガラス製品も買えそうだったが、今後何週間も持ち歩くわけにはいかないし、送ってもらおうにも面倒な手続きをする時間がない。
　臨時収入も痛しかゆしである。

　さっそく街に出かけてみた。
　まず驚いたのが人と車の多さである。まるで新宿にいるかのような混雑で、今までまわった街の中で一番の人波だった。
　しかし、人と車が多いわりには街に活気がない。
　気候のせいもあるのかもしれないが、なんともいえない陰鬱な空気が漂っている。
　やはり２年前の事件のせいだろうか。
　再びプラハに春が訪れるのはいつの日になるのだろう？

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