TOHO見聞録1970/vol.40（ドルンビルン～チューリッヒ）

不思議な国スイス

　ドルンビルンからチューリッヒまでは、国境を越えるといっても、１４０キロしかない。
　山一つ、あるいは川一つ越えるだけで国が変わってしまうことが、いかにその地の人々の生活に大きな影響を及ぼすかということは、日本のように島国の人間には到底理解出来ない。
　したがって日本の外交が他国に比べてしたたかさに欠けるということも、ある意味では仕方のないことなのかも知れない。
　地続きに他の国が隣接していると、一旦緩急あれば食うか食われるかという事態がすぐ起きる。

　この現実の中で、中立国としてのスイスがどのような存在価値をもって居るのか、私には大変興味がある。

　しかし、現実にはスイスの自衛に対する意識は強く、そのための兵役制度や施設の面での備えは特に意識しているようだ。

　例えば、高速道路は即座に閉鎖できるような壁で閉鎖できるようになっているし、一方では高速道路が滑走路として利用出来るように工夫されているそうだ。
　また、核シェルターも着々と整備されている。
　この旅行ではスイスの美しい自然に触れる余裕はないが、せめて、街の人たちの表情や生活を中心に観察してみたい。

　チューリッヒはドイツ語圏である。
　街は美しいと聞いていたが、最近は外国人労働者が多く、とくにイタリア人、ユーゴスラヴィア人達が出稼ぎにくるようになってから、以前に比べて治安も悪く、なんとなく街が汚れてきて、スイスの評判を悪くしていると地元の人は嘆いている。

またまた分宿

ここでも、また分宿、観光国スイスではホテルが足りず、とくに国際会議などが入ると、我々のような団体を安価で、しかも、いっぺんに泊める所はなかなか無いらしい。
　ホテルのフロントで切手を買ったところ、このホテルの親父は１から１０までまで数えるのに、６と７はフランス語、あとはドイツ語という変な勘定をする。
　こちらも、負けじと英・独・仏・伊とごちゃ混ぜでしゃべっても結構話しが通じたりする。

　コンサートはトーンハルレ・グローセザールで行われ、聴衆は超満員、扉を開けてロビーにまで椅子を並べる始末だった。

　今日の演奏曲目は、バルトーク『ディヴェルティメント』（小泉ひろし指揮）、ストラヴィンスキー『ミューズを司るアポロ』、小山清茂『アイヌの歌』（以上２曲は秋山和慶指揮）の3曲。
　ステージも客席も熱気あふれるコンサートであった。

　今夜は西ヨーロッパの総マネージャーであるタウプマン氏も現れたので、シュミット氏と共に、今後のゲネプロ・夕食・休憩を含めて４時間前からホールが使えるように手配を要請するとともに、スケジュールの再検討を依頼したが、タウプマン氏は、「なぜそんなに毎日練習が必要なのか」と不思議がり、斉藤方式を理解出来ないらしく、「アンビリーバブル」「インポッシブル」を連発していたが、「今までの評判を聞いても、今日の演奏を聴いても、斉藤教授は信頼できる音楽家であるから、出来るだけ彼がやり易いように努力しよう」といって呉れた。
　また、シュミット氏も「移動にかかる時間は決まっており、それに食事の手配だってそう簡単には変更出来ない」と渋い顔をしている。
　しかし、我々が最上の演奏をするためには、是非協力してほしいと強硬に主張したため、できるだけの努力をすると」いうことを約束してくれた。
　ここからは団長交代で入野教授は帰国、明日からは戸田教授が団長となる。

チューリヒノトーン・ハルレ GP　

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