TOHO見聞録1970/vol.41（チューリッヒ～ローザンヌ）

多言語国家スイス

　今日は昨夜の交渉どおり、予定を変更して昼までにローザンヌ着くように早朝出発となる。メンバーもだんだん旅慣れてバスに乗ると寝てしまうようだ。途中ベルンで一休みしてローザンヌへ向かう。私もうとうとしているとバスが止まり、シュミット氏が流暢なフランス語で何かしゃべっている。同じ国の中でちょっと居眠りしている隙に、こんなに言葉が変わるのではたまらない。

　ホテルに着くと早速昼食、ここでは、ウエイターがイタリア人で水を貰うのも「アックワ・ペルファヴォーレ」とイタリア語の方が早い。ローザンヌはレマン湖の畔にあり、対岸は水で有名なエヴィアンである。ここは坂道の多い変化のある街だが、フランス語圏であるため、英語が比較的通じないようだ。

ローザンヌの町並み（１）

ローザンヌの町並み（２）

また過密スケジュール

　コンサート会場のパレ・デゥ・ボーリュウは街の北部にあり、なかなかまとまった良いホールである。今夜の曲目は、モーツァルト『ディヴェルティメント』、バルトーク『ディヴェルティメント』（以上２曲は小泉ひろし指揮）、ストラヴィンスキー『ミューズを司るアポロ』、小山清茂『アイヌの歌』（以上２曲は秋山和慶指揮）の４曲。今夜も連日の移動・練習・コンサートにも拘わらず、演奏は乱れを見せることなく大好評で終わる。楽屋には意外にも留学中の大勢の同窓生も現れて気勢を挙げる。皆元気でなかなか活躍しているらしく心強いかぎりである。メンバー達は我慢はしているものの、スイスでの自由時間がないことに、かなり不満があるようで、どこかで、ショッピングする時間をとって欲しいとの申し入れがあった。明日の移動は９５キロ程度で比較的楽だが、ローザンヌで買い物させると坂道が多くて疲れるという斉藤教授の意見もあり、結局シュミット氏とも相談して、朝９時に出発して、ベルンで２時間程の時間を捻出することにした。

　しかし、斉藤教授は「それでは睡眠時間が足りなくなる」とあくまでショッピングの時間をとることには反対で、とうとう私と意見が対立してしまった。私はこの場合はメンバーの士気をあげるためにも、少しは気を抜くことも大切だと考え私の考えを通すことにした。夜はメンバー達がバスルームを借りに来たり、お茶漬けを食べに来たりで、いつの間にか夜が更けてしまった。この所私もさっぱり散歩をする時間がとれないので、明朝はレマン湖まで歩くつもりで、午前２時にベッドに入った。めずらしく相部屋になった秋山氏と小泉氏が気持ち良さそうに寝息を立てている。運動量の多い指揮者は幸せそうに良く眠る。スイスの印象は何かダイエット食品のようで、他の国のような民族的な個性が感じられない。自然は美しく、人々は平和である。しかし、国家とはこれだけで良いのだろうか？何かヨーロッパ全体が共有している観光地と世界中の金持ちたちの財産の隠し場所と考えたほうが現実に合っているような気さえする。

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