10月9日(金)──曇り
行 程 |
午前→自由行動
午後→リハーサル
19:30〜本番(6回目)
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演奏会 |
スメタナホール(プラハ)
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宿 泊 |
不詳(プラハ)
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時 差 |
-8時間(東京比)
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通 貨 |
1コルナ=約25円(チェコスロヴァキア)
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川崎氏と2人で早朝のヴルタヴァ川まで散歩に出かける。
まだ6時だというのに、街は出勤する人々で溢れかえっている。
ヴルタヴァ川はチェコ最大の川で、スメタナの交響詩組曲『わが祖国』の題材にもなっている。
日本では「モルダウ川」というドイツ語読みのほうが知られているかもしれない。
ここからプラハ城を望むのを楽しみにしていたのだが、曇天のうえ霧まで出てきたため、残念ながら景色を楽しむには最悪のコンディションだった。
憧れのヴルタヴァ川の水も想像していたのとは違う。
有名な河で水まで澄んで美しいものは少ない、というのは本当らしい。
ヴルタヴァ川のほとりで。
プラハは戦前の古い建物がそのまま残っている美しい街と聞いて期待が大きかっただけに、この天気にはがっかりだった。
今度は春のプラハに来てみたいものだ。
朝食後は自由行動だったので、配られたコルナを使うべく、チェコ名産のガーネットや子供のためにおもちゃの電気機関車などを買いこむ。
このときプラハで買ったパン切り包丁。今もなお現役で活躍中。下に敷いた新聞は今日の朝刊。42年後の今日の新聞には山中氏のノーベル賞受賞のニュースが載っている。
さらに、ハンガリー産の4年もののトカイワインをみつけたのでこれも購入。以前、日本で飲んだことがあるのだが、とろりとした味が大変おいしく、すっかり気に入ってしまったのだ。47コルナ(約1,175円)と日本に比べると格段に安い。
午後、演奏会場のスメタナホールへ向かう。
収容人数1200名の風格のあるホールだが、かなり古めかしく、あまり手入れもされていない感じだった。
ひとつ気になることがあった。プラハの街中で我々の演奏会のポスターを一度も見かけないのだ。貼られていたのはスメタナホールの前にあった1枚だけ。この程度の告知で聴衆が集まるのだろうか?
スメタナホール前に貼られていた唯一のポスター。他はどこへ?
午後7時半。本番の幕が開いた。
不安は的中し、お客は6割ほどしか入っていなかった。
広報活動は現地のマネージャーに任されているので、熱心な人とそうでない人とどうしても仕事ぶりに差が出てくる。プラハは後者だったようだ。
おまけに、よりによって今夜はチェコでナンバーワンの地位にあるチェコ・フィルハーモニーの定期演奏会が他のホールでおこなわれるらしいのだ。もしや、それで最初から「どうせ売れないから」と手を抜いたのだろうか?
今夜の曲目は、ヘンデル『コンチェルト・グロッソ』、モーツァルト『ディヴェルティメント』、ヴォルフ『イタリアン・セレナーデ』(以上3曲は斎藤秀雄指揮)、ストラヴィンスキー『ミューズを司るアポロ』、小山清茂『アイヌの歌』(以上2曲は秋山和慶指揮)の5曲。
反応は、ソ連やポーランドのような熱狂とまではいかないが、温かい拍手をもらった。どちらかといいうと日本の聴衆に近い反応だ。
トーサイはご不満のようだったが、私は上出来だったと思う。
プラハには、ヨーロッパの音楽界において歴史的に重要な地位を占めてきたという自負心がある。そういう街はどうしても「自分たちが一番」という保守的な考えになりがちだ。その保守的な街で7回もアンコールでステージに呼び出されたのだから、充分我々は受け入れられたと言っていいのではないか。
シュコダ
スメタナホールの前を走っている黒いセダンは、チェコの老舗乗用車メーカーシュコダの旧型オクタヴィアである(多分1960年代のもの)。
日本ではほとんど知られていないが、シュコダといえばヨーロッパではかなりのシェアーを占めているメーカーだ。
軍事産業としても有名だったシュコダ社だが、社会主義崩壊後は民営化されてフォルクスワーゲン社の傘下に入り、現在ではフォルクスワーゲンからエンジンなどの提供を受けてごく普通の乗用車を作っている。
この写真に写っている旧型オクタヴィアは、国際ラリーで優秀な成績を収めたことで世界的に注目を浴びた幻の名車である。リアーウインドウが真ん中で2つに分かれている不思議なデザインが特徴だ。
まず日本ではお目にかかることのできない珍しい車なので、プラハの街で見かけたときは思わず「シュコダが走ってる!」と叫んでしまった。(2012.10.09)
スメタナホール
毎年スメタナの命日である5月12日からおこなわれる「プラハの春音楽祭」のオープニングには、必ずスメタナホールでチェコのテーマソングともいうべき『わが祖国』が演奏される。
日記中では「老朽化」したイメージでしか語られていないが、おそらくこの頃はきちんとしたメンテナンスもおこなわれていなかったのかもしれない。
本来はミュシャが内装を手がけたアールヌーヴォー様式の豪華なホールだった。
現在のスメタナホールは、外観も内部も見違えるほどきらびやかに復元されているらしい。特に日本では『のだめカンタービレ』のロケで一躍有名になったこともあって、劇場ツアーも大人気とだという。(2012.10.09)