TOHO見聞録1970/vol.47（フランクフルト）

ハイネの気持ち

　久しぶりの休日だというのに、また曇りで重苦しい感じである。
　この時期になると、晴れの日でも太陽が見えるのは午前１０時頃から午後４時ぐらいまでで、「美しい５月に、すべての木々の芽はほころび・・・・」というハイネの「詩人の恋」の冒頭の一節が思い浮かび、ドイツ人の遠い春を待ち望む気持が理解できるような気がする。

　昼までぶらぶらしていたが、卒業生の川中勝世さんが迎えに来てくれたので、街へ出る。彼女は昨日、斉藤教授に「世界で一番うまいドイツ料理は日本のローマイヤーの料理だよ」と言われたのが、余程頭にきたらしく、今日は絶対おいしい店に連れて行くと張り切っている。
　街を歩きながら彼女は盛んにドイツ人の悪口を言う。

　そう言えば、日本に居たとき彼女は日本人の悪口ばかり言っていたのを思い出して可笑しくなった。
　しかし、彼女の悪口はドイツ人のインテリが言う自国の悪口に似て、古き良き時代を懐かしむような所があり、本当はドイツを愛しているようでもある。

　まず、ドイツ人の印象といえば理屈っぽく、質実剛健といったイメージだが、およそ、グルメとは縁がうすく、素朴な料理が多いようだ。
　しいてお奨めと云えばソーセージ・ジャガイモ・ビールといったところだろうか？
　もちろんどのレストランもまずいだけではなく、川中さんの名誉のために書いておくが、今日の鶏のクリーム煮は中々美味であった。

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