TOHO見聞録1970/vol.31（ヴィチェンツァ）

行　程	8：30　ローマ・テルミニ駅から汽車でヴェローナまで移動ヴェローナでバスに乗り換えヴィチェンツァに到着午後→リハーサル 21：00～本番（14回目）
演奏会	テアトロ・オリンピコ（ヴィチェンツァ）
宿　泊	ホテル・ジョリ・スタツィオーネ（ヴィチェンツァ）
時　差	-８時間（東京比）
通　貨	100リラ=約58円（イタリア）

世界遺産の劇場で演奏！

　朝６時起床。
　西欧に入ってからやや楽な日程の数日を過ごしたが、今日からまた移動とコンサートの連続が始まる。
　徒歩でローマ・テルミニ駅まで行って始発の列車に乗る。
　映画『終着駅』で知られるテルミニ駅は、ムッソリーニが建設させた自慢の駅だけあって素晴らしい建物である。
　ヨーロッパのターミナル駅はほとんどレールが通過型でなく行き詰まりになっていて、入ってきた列車はまた戻るようになっている。これは外敵をくい止めるためといわれるが、どうも機能的には無駄なような気がする。
　駅の構内はかなりの混雑であったが、わずか10分足らずで、低いホームから車窓へとポンポンスーツケースを運び入れてしまった我々の機動力にポルティエーレたちもあっけにとられていた。

　フィレンツェ～ボローニャを経由してヴェローナで下車。
　ここでバスに乗り換えてヴィチェンツァに到着する。
　この街でコンサートを開くことにイタリア側は大変熱心であった。
　ヴィチェンツァは、街の規模こそ小さいが、ルネッサンス時代のヴェネート派を代表する建築家、アンドレア・パルラディオの故郷として有名である。
　15世紀に始まったルネッサンス様式の建築は、1508年に生まれたパルラディオによって大きく変化したと言われている。
　なるほど、街にはパルラディオ様式といわれる回廊をもった、コンパクトな建物が数多く見られる。
　そして彼が最晩年、1585年に設計した世界遺産「テアトロ・オリンピコ」が今夜の会場だ。

　このホールは大理石造りで、ギリシャの野外劇場風に観客席が急勾配になっていることと、ステージの後ろに舞台装置のようにギリシャの町並みが設えてあるのが特徴だ。
　この舞台装置の明かりが入ると、観客はさながらギリシャの街角でコンサートを聴いているかような気分を味わえる。
　ホールの響きはやや残響が多く、現代のコンサートホールとしては響きすぎという感じだが、弦楽オーケストラにはふさわしく、豊かな響きを楽しむことができる。
　ステージには本物のろうそくが灯され、夢のような雰囲気が漂う。
　今夜の曲目は、モーツァルト『ディヴェルティメント』、チャイコフスキー『弦楽セレナーデ』（以上２曲は斎藤秀雄指揮）、ストラヴィンスキー『ミューズを司るアポロ』、小山清茂『アイヌの歌』（以上２曲は秋山和慶指揮）の４曲。
　我々のオーケストラも、この芸術的なホールに触発されて、すばらしい演奏を聴かせてくれた。

　終演後、日本のミラノ総領事とこの街の市長の主催によるパーティーがあったが、このパーティー会場になった部屋には、伊藤マンショをはじめとする日本の天正少年使節団がこの街を訪れたという出来事を示す壁画があり、我々の来演を希望した理由が初めて理解できた。
　ヨーロッパには、このように小さくても美しい街がまだまだたくさん残っているのだろう。