TOHO見聞録1970/vol.11（ウージ）

最初の強行軍

　午前10時、ポーランド第２の都市であるウージへバスで向かう。
　ウージはワルシャワから南西に130キロほどいった場所にある街で、ポーランドのちょうど中央部に位置する。ピアニストのルービンシュタインの生地としても知られている街だ。

　最初はウージで一泊して明日ワルシャワに帰ってくる予定だったのだが、今朝になって急にマネージャーから「日帰りになったから」と言われる。
　理由はわからないが、ウージは小さな街なので、70人を越える団体が泊まれるホテルがとれなかったのかもしれない。
　夜の演奏会で日帰りというのもきついが、正直ホテルの移動も大変なので、１泊だけのためにパッキングをするというのもしんどいなと思っていた。

　ワルシャワで行方不明になってしまったスーツケースが出て来たという連絡が入ったため、ピックアップのために空港に立ち寄る。
　やはり、積み替えの際のミスでコペンハーゲンまで行ってしまったらしいのだが、戻って来たのは一個だけで、もう一個は依然として行方がわからないという。
　こういうこともあろうかと、スーツケースの一つひとつに大きなステッカーを貼り付けておいたのだが、はたして残りのひとつは戻ってくるのだろうか。

　ウージまではバスで３時間ほどかかる。
　車窓からはポーランドの田園風景が満喫できる。
　途中、ショパンの生家があるジェラゾワヴォラのスカルベック伯爵邸（この家でショパンの父は家庭教師を、母は女中をしていた）の近くを通った。
　この国では土地の国有化があまり進んでいないそうだが、その辺の事情も社会主義国としてソ連などよりはやや中途半端な印象を受ける。
　それだけ西ヨーロッパの影響を大きく受けているのだろう。

　お昼過ぎにウージに到着。
　古い建物がたくさん残っているのに驚く。
　ウージはドイツとのかかわりが深く、ゲットーが作られるなどナチス侵攻の被害も甚大だったが、徹底的に破壊されたワルシャワに比べると爆撃の被害は少なかったらしい。
　そのため、戦後しばらくはワルシャワの代わりに首都の役割を果たしていたこともあるという。

　石畳の街路も風情があったが、予想したよりずっと小さな町で、会場のウージ・フィルハーモニー・ホールも定員が900人ほどの小さなもので、音響もあまりよいものではなかった。
　リハーサルを経て19時に開演。
　この日の演奏曲目はヴィヴァルディ『四季』（井上道義指揮）、ストラヴィンスキー『ミューズを司るアポロ』、小山清茂『アイヌの歌』（以上２曲は秋山和慶指揮）の３曲だった。

　終演後には、ウージ・フィルハーモニー協会主催のパーティーがあった。
　フィルハーモニーの指揮者は町の名士であり、市民達から尊敬されているようだ。
　歓迎されたのはありがたかったが、このパーティーが延々午前零時まで続けられたのには参った。
　せっかくのご馳走も睡魔との闘いでろくに味わうことができなかった。

　それからまたバスに乗り、ワルシャワのホテルに帰りついたのは午前３時だった。
　この程度のスケジュールで音ををあげていてはいけないのだろうが、今後はもっと厳しくなると思うと気が重い。

ウージへ向かう道。ショパンの生家はこの近く。

ウージ近くの田園風景。

バス車内。若者は強行軍でも元気。

対して、すでにお疲れ気味のトーサイ。

ウージの町並み。

ウージ・フィルハーモニー・ホール外観。

終演後の歓迎パーティー。

こちらはお偉いさんエリア。トーサイがかなりお疲れ気味。

管理者の許諾を得ずに、当サイト内のあらゆる画像や文章などの情報を無断転載することは
著作権侵害にあたる行為のため禁止します。