TOHO見聞録1970/vol.10（ワルシャワ）

ショパンの街で

　昨日とは打って変わって曇天の重苦しい天気だが、気温はそれほど低くないようだ。
　天気が悪いと気分にまで影響するのだろうか。今日は午前中からなんとなくいやなムードだった。

　昼食後、今晩本番をおこなう予定のサラ・コンセルトーヴァに向かう。
　このあたりからさまざまなアクシデントで時間が予定より少しずつ遅れ始め、案の定トーサイがイライラしてきた。

　サラ・コンセルトーヴァは、ショパンコンクールの本選会場として有名なホールである。
　ショパンコンクールは５年に一度の開催だが、今年はまさにその年にあたり、しかもちょうど開幕３日前という時期だったため、街なかでは日本人の姿も多く見られた。

　サラ・コンセルトーヴァは収容人数1200名のきわめてクラッシクな造りのホールで、見上げるほど高いステージに山台が造りつけになっている。
　ホールじたいは立派なのだが、音響には難があった。周囲の壁が布張りのため、残響が少なく、音が渇いて聴こえるのだ。
　このホールをホームとするロヴィツキー率いるワルシャワ・フィルは、レコードで聴く限り、あまり繊細な表現を得意とするオーケストラではないように感じたが、それはこのデッドな壁を持つホールのせいだろうか？

　トーサイは思い通りに事が運ばないと不安が募るのか、いつも以上にダメ出しが多くなる。
　この日も３時間の練習予定が４時間を超え、メンバーもだんだん疲労の色が濃くなってきた。
　無理もない。本番前に３時間のリハーサルをおこなうというだけでも尋常ではないのだ。集中力がきれてくるのはしかたないだろう。

　しかしそれを言えばまたトーサイの機嫌が悪くなる。
　こうなると悪循環でますます険悪な雰囲気になってしまう。
　今日の演奏会、大丈夫だろうか？
　こちらも不安が募ってくる。

　だが、その不安は杞憂に終わった。
　１年余にわたる練習の積み重ねは、やはり伊達ではなかった！
　本番は練習中の心配を吹き飛ばすような大成功だった。

　曲目は、ヘンデル『コンチェルト・グロッソ』、モーツァルト『ディヴェルティメント』、ヴォルフ『イタリアン・セレナーデ』（以上３曲は斎藤秀雄指揮）、シェーンベルク『浄夜』、小山清茂『アイヌの歌』（以上２曲は秋山和慶指揮）の５曲。

　ワルシャワの聴衆も温かかった。

サラ・コンセルトーヴァ でリハーサル中のオケ。やはりコンサートホールの中心にオルガンがあるのはいいものだ。

ワルシャワ市内に貼られたポスター。スタッフの梅津嬢と塩野氏。ポーランドでは名前の表記がローマ字だった。

ワルシャワの街を散策中。（左から）川崎氏、指揮者の秋山氏、小泉氏。タクワン色と揶揄された目印のマフラーに注目。

ショパンコンクール本選会場のサラ・コンセルトーヴァ。

ホール前に掲げられた演奏会の告知。

サラ・コンセルトーヴァのロビー。

コンクールの開催を待つ色とりどりの国旗。

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