TOHO見聞録1970/vol.65（帰国）

最後の移動

　ル・ブルジェ空港を11時発のオランダ航空便に乗るため９時にホテルを出る。

　ヨーロッパに残るためパリで別れるメンバーと一人一人握手を交わし名残を惜しむ。健康に注意してしっかり勉強してもらいたいと思う。
　異国の生活に耐えると言う点では、この連中はもうすでに体験済みであるし、旅慣れた彼らには何も心配はない。

　空港でシュミット氏ともお別れである。このスイス人とは随分長い付き合いだったし、直接仕事を共にしたので、一種の友情を感じる。なかなかの男でいろいろ駆け引きもやり合ったが、今となっては楽しい思い出である。
　
　１時間ほどでアムステルダムに着き、北回りアンカレッジ経由の日本航空に乗り換える。

　長峰氏が楽器の後送のためパリに残ったため、添乗員代行も私の仕事である。２ヶ月ぶりに日本人の乗務員と日本の歌のＢＧＭ（この手のＢＧＭは本当に木と紙で作ったもののように感じた）に迎えられ日航機に乗り込めば後は退屈に耐えるだけである。

　コペンハーゲン・アンカレッジ経由して羽田に向かうが、北極の上空を通過する頃になっても、沈みそうな太陽が停止したように動かない。エンジンの音だけが休まずに単調な振動を安らかに伝えている。
　いつまでも続く空に、つくづく地球はまだ我々にとっては大きく、そこに住む人々や風景・文化など、我々には未知なものが無限存在することを痛感する。

　機内では、力の限りベストを尽くした者のみが得られる満足感と安らかな寝息漂っている。

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