TOHO見聞録1970/vol.51（ハノーファー）

太っ腹なチケットオフィス

　我々の休日は日曜日に当たることが多い。この街も日曜の朝は、日本の元日のように静かである。
　全日自由行動の予定であったが、シュミット氏が昼食をキャンセルするのを忘れたため、１１時半に強制的にホテルで昼食を食べることになった。この頃はシュミット氏もメンバーの中に溶けこんでいるので、このようなドジも「あの親父しょうがねぇなぁ」ぐらいで済むようになった。

　ところが、昼食時になって斉藤教授から「明後日のベルリンのコンサートを控えて、ライツのような弛んだ演奏では困るので、明日は１１時から練習をする」と宣言され、ホールの使用時間の繰り上げを交渉してくるようにと指令が出た。

　チェリビダッケのチケットを手に入れる必要もあるので、戸田団長等と一緒にホールへ出かける。ハウスマイスターが不在で、ホールの交渉は埒があかない。
　しかし、チェリビダッケの方は「明日のよいコンサートを期待して」３０人ぐらいなら、無料で聴かせてやるとチケットオフィスの人が言うので、びっくりする。ところが、ホールを見せてもらうと、２度びっくり、４０００人は収容出来るという巨大なホールである。これでは満席になる筈もなく、３０枚ぐらいタダで入れても「枯れ木も山のにぎわい」程度のことであろう。

　しかし、このホールで、我々のオーケストラがどのくらいの演奏効果を上げることが出来るのか、やや心配である。
　夕食後団員の希望者を引き連れてホールまで行き、首尾よく30枚のチケットを手に入れた。

　チェリビダッケは記録映画「ベルリンフィルの栄光」でみた若さあふれる、シャープな印象とはかなり違って、やや、温和な感じであるが、西洋人の指揮者の中ではかなりのテクニシャンであり、そのテンポ設定がいかにも独特で、細部にまでわたって、自分の意志通りにオーケストラをドライブしないと気が済まないといった風である。
　オーケストラを信頼し、任せて流すなどということは、一瞬たりともなく、ゆっくりとしたテンポで押し進めていく。そのために、オーケストラの力量不足が露呈しても一向におかまいなしである。
　この指揮者が表現したい音楽はもっと優秀なオーケストラとの共演を聴いてみないと判らない。このような指揮者が、なぜ、この程度の力量しかないオーケストラと仕事をしているのか？どうも裏の事情があるようである。

　それにしても、このホールの響きの悪さはどうしたことだろう？弦楽器と管楽器のバランスがかなり取りにくいようだ。或いは、我々のような弦だけのオーケストラの方が有利なのかも知れない。
　終演後ホール事務所に寄り、明日の練習時間の延長を交渉し、ＯＫをもらうことが出来た。

　明日、このホールにどのくらいの聴衆が集まり、我々のオーケストラの音がどのように響くのか？期待と共に不安でもある。

右から戸田邦雄（団長）、梅津南美子（スタッフ）、小泉ひろし（指揮者）、村上　綜（筆者）

巨大なクッペルザール

管理者の許諾を得ずに、当サイト内のあらゆる画像や文章などの情報を無断転載することは
著作権侵害にあたる行為のため禁止します。