10月22日(木)──大雨
行 程 |
終日→自由行動
19:00発のティレニア号でナポリへ移動
|
---|---|
演奏会 |
───
|
宿 泊 |
船中泊
|
時 差 |
-8時間(東京比)
|
通 貨 |
100リラ=約58円(イタリア)
|
今日は夕方7時発の船でナポリへ向かうだけで、それまではフリーだったので、先日留守番で見に行くことができなかったモンレアーレヘ行こうと腹に決めていたのだが、あいにく昨夜からの雨が上がらず、土砂降りになってしまった。
おまけに、ホテルの部屋はチェックアウトしてしまったのでもう入れないし、結局半日ホテルのロビーでコーヒーや紅茶をがぶ飲みして時間をつぶすはめになった。
イタリア半島は南北に長い。
イタリアがひとつの国家として統一されたのは第一次世界大戦以降のこと。それまでは都市国家単位で発展してきたので、今でも地方ごとのカラーがはっきりしている。
よく言われるのは北と南の違いだ。
北は芸術遺産にも恵まれ、工業が発達しているためGNPもそこそこ高い。
対して南は人生を謳歌するのが最優先という連中なので、生真面目な日本人から見ると価値観のあまりの違いに呆然とすることもしばしばだ。
ここのホテルのボーイもその例にもれず、隙あらば仕事の合間に女性メンバーを口説きにやってくる。
というよりも、口説いている合間に仕事をしているといったほうがいいかもしれない。
フロントで絵はがきを買おうとしたら3枚で200リラ(約116円)と言われたが、あとで聞いたら女の子には4枚あるいは5枚で200リラという値段で売っていたらしい。
4枚と5枚の差はどこでつけられているのかが気になったが、とにかくここまで本能に忠実なのはあっぱれというよりほかない。
ソ連での厳格なレジシステムを思い出し、こんなことが許される国にまできたんだなと感慨深くなった。
さらに切手を買おうとしたら「今切手が品切れだから、切手代を払ってくれれば、後で投函しておいてあげるよ」と言われた。
相手によって3枚で売ったり5枚で売ったりするようなやつに言われても信じられなかったが、他にどうしようもないのでハガキと切手代を託した。
(註*ここで出したハガキは日本に着くことはなかった。イタリアでは年中ストライキがあるため、郵便物が大量に滞貨することがあり、そんな時はあまり重要でない絵はがきから燃やされてしまうらしい)
また、彼らはしばしば釣り銭もごまかす。
最初は「どうせ外国人だから単位がよくわからないだろう」と甘く見ているのではないかと思ったのだが、今日は釣り銭を多く渡されたので単に計算に弱いだけなのかもしれない。
ヨーロッパ全般がそうらしいのだが、彼らには「引き算」という概念がない。
たとえば8,500リラの品物を購入し、10,000リラを渡したとする。
日本人だったら即座に頭の中で「10,000−8,500=1,500」という数字上の計算をおこない、1,500リラをお釣りとして渡すだろう。
しかし彼らの考えは違う。
10,000リラをもらったら10,000リラ相当のものを渡して引き換えにする。それが取引の基本だと考えている。
まず8,500リラの商品を渡す。
その商品に500リラをつけて9,000リラにする。
さらに1,000リラをつけて10,000リラにする。
ここで初めて10,000リラと引き換えにできる…という寸法だ。
日本人はこういうとき、お釣りを出しやすいように10,500リラを出したりするが、彼らには不可解な行為にしか思えないらしい。
最初は「なんてまだるっこしいことを」と驚いたが、よく考えてみれば品物とお金を交換するというシステムにのっとって考えればこちらのほうが筋が通っている。
相手に確認させるという意味もあるのだろう。
たしかに日本人の計算能力がすぐれているのは間違いないが、将来計算機が発達して頭で計算する必要がなくなったら、引き算ができないこともそれほど問題ではなくなるのかもしれない。
このように、いいかげんで怠け者で女好きで計算にも弱いイタリア人だが、陽気で愛嬌があるためかなぜか憎めない。
イタリア人は欠点を魅力に変えてしまう天才なのかもしれない。
長い時間を潰し、ようやく午後5時45分に港行きのバスが出発する。
港からはティレニア号という4000トン級の船に乗って一路ナポリに向かう。
雨も上がったようで海も穏やかだった。
快適な航海が楽しめそうである。
パレルモの港を出航する船