10月3日(土)──雨
行 程 |
8:00 モスクワ到着
終日休養日
|
---|---|
演奏会 |
───
|
宿 泊 |
ホテル・ロシア(モスクワ)
|
時 差 |
-6時間(東京比)
|
通 貨 |
1ルーブル=約400円(ソビエト連邦)
|
朝8時にモスクワ到着。今日一日は休養日だが、朝から洗濯などをしたので結局昼寝はできなかった。
午後、通訳のホー氏の依頼を受け、メンバー数名を集めて座談会を開く。『新婦人』という雑誌に掲載するらしい。
テーマは「ソ連の印象について」。
各人の印象はさまざまであったが、「ホールの素晴らしさ」と「聴衆の暖かさ」に一番感銘を受けたようだった。
その後、またドルショップをぶらつく。
街に出ても商品が少なく、買い物に手間がかかるため、ついついドルショップに足が向いてしまうのだ。
あまりにも頻繁に訪れたため、しまいには女店員に顔を覚えられてしまった。何も買わないくせに、よくウロウロする奴だと思われていることだろう。
夕方になって、今晩のボリショイオペラ『戦争と平和』(プロコフィエフ)を7人ぐらいなら観られるという話があったので、希望者の中から抽選で決める。
引率は入野団長の予定だったが、モスクワ音楽院のヤンケレヴィッチ教授のお宅に招待されたため、秋山氏に引率を代わってもらうことになった。
部屋で座談会の原稿をまとめていると、11時半過ぎに秋山氏が戻ってきた。
行ってみたら手配してあるはずのチケットが用意されていなかったらしい。さすがにソ連滞在1週間目ともなるとこういう事態にも驚かなくなってきた。
結局、劇場側の好意で入れてもらえたそうだが、急に引率を押し付けられた秋山氏はあまり機嫌がよくなくて「夕食を食べそこねた」とぼやいている。
しかたがないので、隠し持っていたインスタントライスでお茶漬けを作って食べさせてやった。
午前1時、ようやく原稿を仕上げてベッドに入る。
一番懸念されたソ連公演だったが、なんとか乗り切ることができた。
この一週間、実にいろいろな体験をした。
ソ連から見たら「アメリカの植民地みたいな国からやってきて、たかだか一週間ぽっちの滞在で知ったようなことを言うな」と思われるかもしれないが、やはりこの一週間のカルチャーショックはすごかった。
とにかくこの国の桁外れのスケールには圧倒された。とても日本人の感覚ではつかみきれない大きさだ。よくいえばおおらか。悪く言えばおそろしく大雑把。
しかし不備はいろいろあったものの、この国の人々の一人ひとりはとても素朴で良い人たちだった。
お金を出せばなんでも手に入るという生活にどっぷり浸かっている日本人としては、反省させられることも多々あった。
しかし、外貨獲得のためとはいえ、外国人旅行者がこのように次々と入ってくるようになると、いくら素朴な人々でも今のままではいられなくなるのではないかという疑問を持たざるをえない。
情報システムや情報機器は今後どんどん発達していくだろう。
そんな中で、このように低い水準に抑えられた生活を国民に強いるやり方がはたしていつまで続けられるのだろうか。
外国人に対する監視の目が厳しければ厳しいほど、その危うさを感じずにはいられなかった。
まだ全旅程の一割を消化しただけだが、まったく気骨の折れる一週間であった。
つるふさの法則
1970年当時、ソ連の最高指導者(ソ連共産党最高会議幹部会議長)はブレジネフだった。ブレジネフはじつに19年間もトップとして君臨し続けたが、この時期はブレジネフ時代の中盤にあたる時期であり、国民の支持にかげりが出始めた時期でもあった。
ブレジネフ時代の末期にはソ連崩壊の予兆が少しずつ出始めたが、この頃からある小咄が流布するようになった。
「つるふさの法則」である。
これは、「ソ連の最高指導者は、つる(ハゲ)→ふさ(毛髪豊富)が交互に並ぶ」というもので、さらに「つる→革新派。晩年は暗殺やクーデターなどで失脚する」「ふさ→保守派。権力の座にしがみつき、死ぬまで権力を離さない」という補足もついている。たしかに並べてみると、
レーニン(1917-1924)
スターリン(1924-1953)
フルシチョフ(1953-1964)
ブレジネフ(1964-1982)
アンドロポフ(1982-1984)
チェルネンコ(1984-1985)
ゴルバチョフ(1985-1991)←ここでソ連崩壊
エリツィン(1991-1999)
プーチン(2000-2008)
メドヴェージェフ(2008-2012)
プーチン(2012-)
と100年近くにわたって見事に法則通り進んでいる(括弧内は任期)。
「つる→革新、ふさ→保守」という法則も、ロシアになって以降はわかりにくいものの、ソ連時代はほぼその通り色分けされている。
正確にいうと、スターリンとフルシチョフの間にはマレンコフというトップがいる。
彼は唯一の例外で「ふさ」の次の「ふさ」なのだが、任期が8日間と異常に短いのでこの法則上ではカウントされないのが普通であるようだ。
「つるふさの法則」は国内だけでなく、世界的に知られていて、次の指導者が決まるときにはこの法則をあてはめて予測する人が少なくない。
さて、この記録はどこまで更新され続けるのだろうか?(2012.10.03)